吟遊詩人かく語りき



4.元姫君もかく語りき

 あからさまに距離を置こうとこそはしなかったけれど、身分の違いを挙げて城では最低限の線引きをしていた。敬ったりしないでと怒るあたしに、それならば、とお説教の時にも遠慮なく距離を詰めてきた。

 あのキョンが。

 ひざまずいた古泉くんから手を奪い返す事も出来ずに、呆然と、硬直したまま突っ立っている。あたしは思わずニヤニヤ笑いながらながめてしまう。あのキョンが、ねえ? 仕掛けの歯車がさび付いたカラクリ人形の様にぎぎぎ…と首を回して、あたしと目を合わせた瞬間に真っ青になって、それからまた真っ赤になった。こんなにうろたえてるキョンを見るの、初めてでおかしい。

 先刻までお話の中の主人公みたいに格好よく(例え相手がキョンであっても)ひざまずき、相手の指先に口付けていた古泉くんは、今はもう全身でキョンのうでにすがり付いているみたいになっている。逃げた奥さんにとりすがる旦那さんみたいであんまり美しくないわ。これで断られたらちょっとやり切れない。でも何だってそんなに一気に惚れちゃったりしたのかしら。一目ぼれみたいな事を言ってたけれどその辺の流れがあたしにはよく分からない。あの二人がちゃんと面識があるのかどうかも、よく考えれば知らなかった。……古泉くんの一方的な想いだったらそれはちょっと執着が強すぎるわよね。でもあの時、何であたしたちの助けてくれようとするの、って睨みつけるように聞いたあたしに、息を飲んで、それでも真剣な顔で答えた。古泉くんの本気が判ったから、あいつがいいなら良いわよってあたしも言っちゃったんだけれども。
 ともあれ話している内容は武士の情けで聞かないでいてあげるわ。そう思いながら二人からは少し離れた場所に移動する。
 ……って、武士? 武士って何だっけ?

 結局しばらくしてからキョンはうなずいたの。あんだけ色々言われてて、うなずくだけってのも偉そうだと思うけれど、顔もゆでだこみたいだったし、何より二人とも嬉しそうだったから良しとするわ。ううん、古泉くんはともかくキョンは真っ赤だからよく分からないんだけれど、嫌そうではなかったからいいのよね。いきなり結婚まで了承するとは思わなかったけれど。ま、幸せになんなさい。

 じゃあ教会に行くわよ。え? 何ぐだぐだ言ってるのよキョン! 予定の先がつかえてるんだからさっさと結婚しちゃってよ! 予定が何って? だから結婚イベントで無敵効果が付いているうちに追っ手を振り切って神殿行って、転職して、戻ってきて、この国の馬鹿げた占星盤、ぶち壊しに行くに決まってるじゃない! また誰か無理やりお姫様にされるの阻止するわよ!! 新婚ボケしたいならいくらだってしていいから、帰ってきてからにしなさい! 言っとくけど

 来ないと死刑だから!!




    [かく] [さらに] [すべて] [姫君も] [いまを] Fin

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20090608 改定

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