まっていたいけれどしょうがない







 待っていたいけれどしょうがない。これは俺の勝手だから、俺の勝手があいつに届かなくてもしょうがない。いつかアイツが帰ってきて、どこかですれ違いそうになって互いに気付く、その時アイツのとなりには恋人だか嫁さんだかがいたりして、その嫁さんが赤ん坊を抱いていたりするかもしれないんだ。目が合った俺に一瞬顔をこわばらせてから、いつか見たような笑顔を呼び覚ましてアイツはにこやかに挨拶する。おれはやっぱりぎこちなく笑いかけて、嫁さんと赤ん坊に挨拶して、少し話して手をふって別れる。そんな風に。そうして、アイツと連れの姿が見えなくなるまで背を向けたまま立ち尽くして、足が動くようになったら、仕事の最中だろうが、打ち合わせがあろうが何だろうが、その場から脱兎のごとく逃げ出して、走って走って走り抜いて、どこか知らない場所で、誰も居ない場所で、声をあげて泣くんだろう。

 酷い夢を見て目が覚めた。目元は腫れ、こもった音のする耳を指でしごくと、流れた涙で濡れていた。古泉、こいずみ、こいず…しゃくりあげた声が喉に詰まる。

「おはようございます、起きましたか……え?」

 覗き込んだドアに手をかけたまま硬直した古泉は、部屋に飛び込み慌ててベッドに駆け寄ってくる。

「どうしたんですか?! 何が…ええ?! あの! 」

 起き上がる気力も無く寝転がったまま、夢のなごりで無茶苦茶に蹴り上げた、布団のへりにしがみついて。真っ赤な顔でしゃくりあげながら訴える。
 お前が悪い。

「僕ですか?! 何が……」

 おまえがいないのがわるいんだ。

 開いた口を閉じて、いいかけた言葉を飲み込んで、布団ごと古泉は俺を抱きしめた。

「僕が悪いです…!」

 ほんとうにどうしようもなく馬鹿だよな。おまえそんなんだと絶対嫁さんに逃げられるから

「何の話ですか……!? 嫁なんて居ませんし要りません……」

 だからおれにしとけよ。そう言った俺に、布団のむこうで絶句した古泉があとで、一体責められているのか口説かれているのか、あの時は本気で困りましたよ、としみじみ言っていたが、そもそもおまえがいないのが全部悪かったんだからなと、何も聞こえないフリをした。夢の中でしょうがない、と諦めていた気弱な自分の話は丸ごと内緒だ。






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ほんとにどうしようもない(苦笑

20090512

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