ホーリーマウンテン




「ずるいと思いませんか」

 恥も臆面も無くそうして他人の話もまったく聞かずに正面から、古泉は俺をがっちりホールドしたままブツブツとつぶやいている。何がだ。

「どこかの僕が、です」

 そりゃまたどこのどなたの話だ。

「それは判りません」

 判っていたらこんなにイライラしませんよ。ふ、と息をついて、抱きしめた俺をゆすり上げるようにして、更にぴったり隙間の無いように密着させられる。椅子から立ち上がりかけた中腰の状態で、目の前の制服の胸元に頬が押し付けられて、なあ俺は、しゃべるのすらしんどいし何より顔が熱くて息苦しいんだが。お前、殴っていいか。

「やっぱりずるいですよ。僕だって」

 頭の上のほうで更に愚痴にも似たつぶやきが続く。というか他人の頭頂部にあごを乗せるな顎を。お前のその無駄にいい声が、頭のてっぺんからダイレクトに体の奥の方に響いてだな……いや、何でもない。諦めて先を促す。僕だって何だ。

「僕だって言いたいです」

 だから何を。

「しっかりあなたを幸せにしてみせますよ、って」

 黙るしかなくなった俺を気にも留めず、古泉はさらに、ずるい、と繰り返す。
 あんな満面の笑顔で僕だって言いたいです。
 あんなって。あんなか。なあ、古泉……それは。言いかけて俺はやっぱり黙り込んだ。どこかただっぴろい所で、それは言われた事だろうか。俺たちではない俺たちの会話で。だったら古泉。
 俺、別にあんな被り物してるやつに、何を言われたくも無い、からな。

「え……?」

 目を見張って覗き込んでくるヤツから俯いて表情を隠す。別に満面の笑顔で無くたってお前で、お前が言いたいならば小さな声でだって何だって、別に構わないんじゃないか。

「それで……貴方は?」

 俺が。

「嬉しいですか?」

 答える代わりに抱き込まれたままだった腕をむりやり引き剥がし、首っ玉にぎゅうぎゅうにしがみついてやった。

 

 手を引かれて古泉の家になだれ込み、そのまま無駄にいい声を内から外から浴びせかけられ続けて3ラウンド。4ラウンド目、と引き倒され、流石に逃れようともがいた耳元に、件の台詞が小さく落とされる。一度は落ち着いた筈の体の奥に幾度目かの熱がともり、俺は思わず息をのむ。お前の声は反則だ。
 ごくりと動いた俺の喉仏を見て淫靡に笑う男の首を抱きこんで、再びシーツにダイブした俺も大概終わってる。




 

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ハルヒちゃんが可愛すぎたのでカッとなって(笑)

20090227

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