それはいつもおなじこと




 部室の向かいで長机にひじをつき、組んだ指の上にあごを乗せて微笑む男の言動は 他の部員が出はらっている時、必要があるのか無いのかすら定かでない 留守居を申し付けられて居る時、俺と二人でいるときには 油断するのか故意になのかは判らないが、 そのいちいちに突っ込みを入れ続けたくなる程、崩れる。

 突っ込み始めると己の疲労が増すだけなので 何時もは適当に受け流す事にしているのだが、 何ともいい事を思いついたかのように嬉々として告げられた言葉が あまりにアレだったので、そのアレとはなんだその、 アレということで軽く流して頂きたいのだが、 何時ものこととは言え、盤面から視線を上げて思わず目の前の顔を見た。 目が合うとにこりと笑って、組んだ指を解き両手のひらを上に向ける。
 
 それは馬鹿にされたような気分になるんだ、と 苛立たしげに前に言った事をもう忘れたか、 それとも古泉一樹のペルソナは条件反射で何時まで経ってもそうしてしまうのか。 怒りも呆れも見せない俺が無表情のまま古泉を見つめていると、 笑いを微妙に強張らせて落ち着かなさげに視線をさまよわせたあと、 長い指をそろりと下ろし体に引き寄せるようにして、 長机の端にかかる辺りでもう一度指を組んだ。

 何か言い出すのを待つようだったが俺は何も言わない。 「して差し上げる」と言う物言いは何なのだ。 「〜〜したら」「〜〜して差し上げます」?御褒美をチラつかせられた犬か何かか俺は。 してあげる、と言うことはつまり相手にとってしてもらう事が良い事である訳で、 俺が喜ぶ筈である提案なのだ。あくまで古泉が思う所による話だが。テストに受かったら。 素敵な提案のように言うそれを、俺は喜ぶべきなのかね?古泉くん。

「……あの」

 俺のだんまりに我慢が出来なくなったのか、小さな声で古泉が

「すいません……何か言って下さい……」

 何かってのは何なんだよ。先刻までの自信はどうした、と思うが何も言わない。

「あの……ごめんなさい」

 俯いて謝罪する。しおれっぷりが極端なんだよ。

「謝る位なら最初から言うなよ」

 ようやく発した俺の声にほっとしたのか、ぱっと顔をあげて、また俯く。だいたいが押し付けがましいんだ。して差し上げるだなんて。俺は別に。

「……はい」

 いよいよ小さくなる男から目をそらして窓を見れば外はいい天気だ。留守番中に団活せよと命じられているものの、帰宅時間は定められていないから早々に撤収するかね。

「テストを無事にクリアしたら、キスして差し上げますよ」

だなんて。
お前

 ……別に、テストをクリアなんかしなくても、言えば何時だってキスしてくれるだろ。

 弾かれたように顔を上げる男にお前カギ閉めてこいよ、と言い捨てて、 カバンを掴んで廊下に飛び出した。触れなくても判る程、自業自得で顔が熱い。

 慌しく追いかけてくる男の足音が聞こえて、追いつかれるまであと少し。

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いじめっこかと思いきやキョンでれでした(笑)

200900104

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