海の七月

 長男と次男と赤子で・ナイナイ(パラレル気味で三男が居ない)

 つい先ほどまで自分の足で機嫌よく遊んでいた赤子は、ぐずりもせずにすとんと眠りについたようだった。気恥ずかしさすら覚える赤子へ向けられるコンラートの、どうしようもない甘い囁きは、あれ、と言う戸惑いと共に宙に浮いた。
「…もう寝ちゃいました? ユーリ」
 気に入りのぬいぐるみ、読み聞かせ用の絵本、そしてそれを読む声も子守唄さえも、今日は必要ではなかったらしい。バンザイの姿勢ですやすやと眠る幸せそうな寝顔を覗き込みながら、用意した一式を抱えたコンラートがあからさまにがっかりした声で呟く。寝かしつけようとして眠ったのならばそれで良いだろうに。手元の新聞を取り上げ広げ、目を落としながら、グウェンダルは声をかけた。
「――お前も寝たらどうだ」
 お前こそ仕度は出来たのか、と、からかい混じりに問えば、抱えた道具をそっと棚に戻したコンラートが、仕度? と首をかしげる。
「寝る前に言葉を交わさないと眠れないとでもいうのなら、お前にこそ子守唄が必要なのではないか?」
「ああ、グウェンが歌ってくれるのかな?」
 目を丸くした後、微笑んでくすくすと続けるのに、眉をひそめる。
「それが駄目なら、本なら良い?」
 歌の代わりにね、と押し付けられた赤子お気に入りの本を何故か朗読させられる羽目になる。読み上げながら今更ながら何の為かと疑問に思い、声をかけようと目を向ければコンラートは既に腹にタオルをかけた赤子を抱くようにその傍らで眠っていた。溜息をついてタオルケットをかけに行ったものの、黒い瞳をぱちりとあけてコンラートの腕の中から不思議そうに見上げてくる赤子と視線が合い、思わずうめいた。重々しすぎる朗読のせいだったとは思いたくないが寝ていた者が起きた事実は変わらない。敗北感にさいなまれながら「すまない」と謝罪すれば、答えるように、赤子は楽しげな声をあげた。勿論その声で弟は直ぐに起きたのだが。
  改めて渡され読まされた絵本では、赤子はじたばた激しく、(一応は楽しそうに)手足を動かすばかりで、眠りに付くことはなかった。敗北を感じながらグウェンダルはコンラートの子守唄を聞いた。赤子が寝付いたのはそれから一時間後だった。完全なる敗北だった。うな垂れた弟も含めて完敗だ 。







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あかごさま
(201208)

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