海の七月

 何時も何度でも (未来/結婚済/なぜか地球/昼のカフェ/指輪)


二つ先のテーブルではプロポーズが成功したようだった。彼女が彼の首に抱きついて彼が泣き笑いの様に顔を歪めている。察して祝いを述べにやって来た店員と、雰囲気と卓上の指輪に気付いた周囲の客が、笑顔で二人に拍手を送っている。無論俺たちもだ。昼の光に満ちた爽やかで明るい良いカフェだ。そうして店側で祝いの客に贈っているらしいチョコレートもテーブルに届いた。サプライズに驚き、また幸せそうに笑う二人の姿は見ているこちらも嬉しくなる。幸せにな、色々あるかもしれないけれどしっかりな、きっと大丈夫、余計な事まで口に出さずに、呟く。

「あんな風なのがよかったかな」

向かいで首を傾げる恋人は放置しながら、頬杖をついて呟く。俺たちの始まりは言い争いのような状況だった。売り言葉に買い言葉のような、勢いがなければ押し切れないような、別れ話の修羅場のような状態で、付き合っても居ないのに倦怠期を迎えたカップルが行き詰まっているみたいだったよ、と、流石に長すぎる準備期間をずっと傍で見守ってくれていて、やきもきしすぎたと言う友人に呆れたように揶揄されたが、確かにあんたはあんたで果てしなく隠そうとするし、俺は俺で臆病すぎて…いや、責任は二等分なのだから今更な話だ。まあいい。

そうして結婚の時はまったく逆で、面倒ごとが手をつないでやってくるのがわかっていたから、周りが痺れを切らすまで二人でのらくら逃げていた。二人、と言うのは俺の主観じゃないよな? と問えば頷く。何しろ二人だ。二人で居られるならもう何でも良かった。他人に何を言われようとその時はもう絶対に互いの手を離さない様に繋いでいたから、その点だけは確かだ。

「では何故?」

しまった、この男はそういう事を気にするのだった。静かな微笑の下にぐるぐると何かを溜め込み始めた厄介な連れ合いに向き直り、服のポケットからそれを取り出す。

「これ」

目を瞠る男を顔で促し、箱を開けさせる。出てきたのは獅子を模した銀細工。指輪ではない。

「俺たち派手な指輪はしないし、沢山あっても仕舞っておくだけだし、でも何かあってもいいよなと思ってさ」

取り出して見つめる指先を見つめる。この指も好きだ。抱きしめてくれる腕も、相変わらず俺より一回り大きい体も、前より長めで目元に落ちてくる髪も、髪をかきあげてやれば目を細めながら瞳の中できらめく星も、何もかも好きだ。

「記念品とかどうでもいいんだ。見た時あんたに贈りたいと思った」

ありがとうございます。きらめく星が微笑むだけで泣きたくなる。

「残念ですが俺は何もないのですが…」

それはいいんだ。

「あんたをくれれば良いよ」

「もうとっくに貴方のものですが?」

頬に触れれば手にすりより目を閉じる俺を守る俺の伴侶。俺が愛する守りたい者。ずっと一緒だ。だからこそ。

「前貰ったときからの差額分があるだろ。それを貰うからいい」

俺は貪欲だから、その太陽みたいな笑顔ごと何度でも全部あんたを貰うよ。

あそこは本当にいいカフェだった。指輪を交換している訳でも派手に抱き合っている訳でもないのに、静かに微笑む店員は俺たちのテーブルにもチョコレートを持ってきた。バレバレだったのかな、あれには正直参ったな。そんな事を言ったら物凄く変な顔をしながら話を聞いていた友人と、あいまいな笑みを浮べて話を時々突っ込みを入れていたお庭番とが、そろって大きな溜息を付いた。
二人して何だよ、なあ? コンラッドは黙って微笑むばかりだ。








<<






パラレル…と言うよりは、何か用事があって地球に来た、既に結婚してる二人、ぽい。
お題はツイッターのお題で指示を受けましたwww
『「昼のカフェ」で登場人物が「思い出す」、「指輪」という単語を使ったお話』






(20110101)

http://sos.main.jp/see7/index.html
DESIGN BY YEAR OF THE CAT