海の七月

 猫の森には帰れない (未来) 

うちの家族は底抜けに前向きと言うか明るいと言うかタフでそうして普通だった。遠い世界で暮らし始めた息子に、それこそ地球の裏側へ単身赴任した家族へ向けて書く様な、ごく普通の手紙を書いた。日常の事、伝えたい事、楽しい事、悲しい事、他愛もない事。そうして呆れたように時々付け加えた。

『たまには帰ってきて元気な顔を見せてください』

ごく普通に。当たり前の、いちいち言わなくても判るような愛情を持って。

『もう10年もゆーちゃんの顔を見ていません。勿論元気だとは思うけれど、悪いと思うなら何か、写真…はそちらなかったかしら? とにかく何でも、絵でもいいからゆーちゃんの今を見せて下さい』 

あの時は恥ずかしいから止めてくれというのに皆によってたかっていかにもな肖像画を描かれてしまったっけ。大笑いした感想がしばらくしてから戻ってきた。まあ尤もあの感想は無理やり同封されたヴォルフの絵を見て、のものなのかもしれないのだけれど。絵の礼に、手紙に同封された地球の写真を見てこっそり泣いた。皆知らない顔をしてくれた。――それももう昔の話だ。

10年帰らないと言われたあれから一体何年経ったのだろう。少しだけ沈んだような俺の気配を察して、どこからともなく護衛がやって来た。

「どうしました」

心配そうに眇められる瞳に輝く星は昔から少しも変らない。何年経ってもそんなふうで、相変わらずあんたは過保護が過ぎる。

「ん、これ」

目の前で手紙をひらひらとさせてやれば、彼は長兄そっくりに眉をひそめた。思わず笑って、

「そんな顔すんなよ」

延ばした手で、覗き込むようにしている護衛の頭を撫でた。驚いたように目を開く彼の髪をくしゃくしゃとかき回しなながらささやく。

「考えてただけだからさ」

「何をです」

「返事の文面」

ずっと書きたかった。書いておきたかった言葉。これで終わりなのが、目の前に突きつけられるようで、何時までもかけなかった最後の手紙の返事を。どうすれば笑ってもらえるか安心してもらえるか。――届ける先はもうないのだけれど。

「俺は元気でやってます。仕事も完璧とは言えないけれど皆と一緒にがんばってるし、あと――」

髪から降ろした手を頬に滑らせて、

「恋人もいるから大丈夫って」

長い腕にきつく抱きしめられて、その胸に身を預ける。ほんの少しだけ涙を零し、目を閉じたまま静かに微笑んだ。何度でもこうして笑うから、だから俺の心配は要らない。

ありがとう。ずっと先のどこかで――いつかまた。





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谷山浩子の歌のイメージで・未来
(20101005)

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