海の七月

 カーニバル・ナイト(触手・悪い遊び・お庭番・陛下・護衛)

※触手注意報↓↓↓










 中毒性が無いのが最低限の条件だった。窓からするりと忍び込んだ悪い笑顔の男が「お土産ですよ」と、手の上に転がしてくれたのは、上流階級の者が密かに使用する、魔力を糧とする植物の種だ。ガラス玉のようなそれはユーリの内から発散される魔力を吸って既に小刻みに揺れている。薄っすらとかかる膜が割れれば発芽となる。芽吹いてから枯れるまで一晩。辺りに漂う魔力があれば自然に吸収する為、保存は特殊な箱の中でするしかない。
「使う本人に魔力がなかったら、誰かに注いでもらわなきゃならないんですけれどね」
 窓に足をかけた姿勢で振り向いて夕陽の髪の男がニヤリと笑う。
「陛下なら有り余ってますでしょう?」
 有りすぎてむしろ何時までたっても枯れないかも。ああでも一番鳥が鳴く時間にはよくも悪くも終りますので……。何が楽しいのか、笑い声まで立てて窓の向こうに消えた。あれは、いずれ「彼」にバレる事を前提としたその状況を想像しての笑いだろう。バレると判っているのならば止めればいいものを、わかった上でこちらがやめない前提での笑いだ。勝手にカウントダウンが開始されてしまったので止む無く、私室に持ち込んだ書類は明日に回すことにする。
「ちなみにね、熱いお湯に沈めれば成長は止まりますよ」
 窓の向こうから一応言っておきます、と声をかけられた。散々煽った挙句にそれか。本気で止めるつもりも無いだろうし、こちらもそれは同じなのだが。

そんな具合に余裕が有ったのは最初だけだった。後悔は先にたたず。好奇心は猫を殺す。そもそもが最高な筈の無いつまらない遊びなのだ。反省を問われるならば、最初からひっかけに気付いていた筈なのに、あえて無視した自分の所業にだ。やっぱり止めだと途中で沈めに行った部屋付きの小さな風呂に、叩き込んで止めたはずのそれは成長が止まるどころかまさかの暴走をした。無数の「ソレ」がぬらぬらと、怒涛の勢いで出現した。あっと言う間に捕らえられ吊り上げられた体の服の隙間から忍び込む無数の触手。体を這い回り粘液を垂れ流す。ぐちゅると卑猥な音を立てる。体の内と外、精神の中までかき回され、快楽と嫌悪を引きずり出されて、かすれたように呼んだ声に応えるように、身動きが取れなくなった所に飛び込んできたのは、帰還した足でまっすぐに主の元にやってきた、怒りとも何とも知れない苛烈な感情撒き散す護衛であって。抜き放った剣で護衛は浴室を埋め尽くす森と化したソレを嵐の様に切り刻んだ。
その日の夜明けは遅かった。思いつく限りで最悪で最高の馬鹿馬鹿しい夜で、それでもすがりついた背中に酷く安心して、その腕の中で意識を失った。
――目覚めた後にどんな説教が待っているかなど思いもせずに、安らかに。









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大変ぬるい触手でございました
(20120519)

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