海の七月

 @の恋人

渋谷有利がツイッターを始めたのは必要にかられての事だった。草野球チームで集まる時に、電話で全員に連絡するより「変更があったらツイッターに書いておくから」で済むからと言われたからだ。集合二時間くらい前に、皆に見ておいてもらえれば、渋谷、携帯電話ですらあんまり使わないんだからその方が楽じゃね? そんな風に言われて。最初は拒否反応が出たし、時系列で一気に流れてゆくツイートにとまどって全部把握しようとして頭痛すら起したものだったが、流石にもう慣れた。このツールに一日中どっぷりと嵌るものも居らしいが、自分にとってはあくまで草野球チームの連絡用掲示板でしかないし、普段からネットに張り付いている訳でもない。流れてしまうツイートは到底追い切れないので自分宛を取りこぼす可能性は常にある。自分に連絡がある場合は、返事がいらないもの以外は、別個にメールなりDMなり、普通に電話して欲しい。そんな頼みも皆笑って受け入れてくれたので、すっかり気楽になった。そうなると逆に、タイムラインを見た時に多少の働きかけ位はしてみようと言う気になるものだ。@付きはめったにないが、おはよう、おやすみ位は書き込む。短い会話くらいならする。ただ集合直前の確認の時は携帯電話からでも見るが、確認の殆どは授業やバイトのない時間の隙間で繋ぐ、自宅のPCからだ。自宅とは言っても実家ではなく、なし崩しに住むようになった「これでもランクを落としました」とにっこりされた時には頭が痛くなった3LDKのマンションのリビングでの話だ。

そうして今、隣では名付け親兼、バッテリー兼、護衛兼、恋人…である、男がニコニコしながら携帯を操っている。と言うかそれ打ち込むのに、一体何分かかってるんだよ!

「いえ、日本語に変換して打ち込むのがなかなか難しくて」

難しいと言いながらやっぱり笑顔の男は、ようやく打ちおえて送信したようだった。ツイッターの画面には俺宛に@でメッセージが現れる。って言うか隣に居るんだから口で言え! しかも何かたどたどしいだろ。何だよその「お 休みなさい・ ユーリ。。」って……!

「え? でもここにも書きたいです。ユーリがお休み、って書いてあるので」

携帯のキーが変換しにくいならPC使う? と聞いたなら、携帯入力を練習したいのだと言って、コイツはがんとして譲らないのだ。日本の携帯だからちょっとややこしいんだよな……ガラパゴスって言われてるし、それでも物凄く楽しそうなのでもう好きにさせることにした。
俺のスタツアにうっかり巻き込まれてこちらに戻って、もう半月位が過ぎている。風呂場の湯船から二人してずぶぬれで帰還して、呆然としたのは一瞬だった。あっという間にこちらの偉いさんに連絡がついてコンラッドの身分証やら何やらが用意され、マンションまで宛がわれて。(ちなみに今俺が使っているこのPCも俺の物ではない。家財道具と電化製品と一緒に置いてあった。俺が居ない時に調べ物位は使っているようだけれど、使わなければもったいないでしょう? と押し付けられて、ほとんど俺の私物のようになっている)そうして、広すぎて俺一人では勿体無いですよ、こちらで暮らしませんか、などと言うあからさまな誘いに、兄の反対を押し切って、乗って、今に至る。なーにが俺一人では広いです、だよ。血盟城のアンタの部屋の方がもっと広いだろ。

「あちらはあまり狭い部屋だと世間体が悪いらしいですよ」

他人事みたいに言うよな……。

「空にしておくよりは有効的じゃありませんか」

ね? そうにっこり微笑みかけたあと、また性懲りも無く携帯に手を伸ばすので、彼の手が触れる前に払いのければ携帯電話は、アイスホッケーのパックのように机の上を滑って大きなテーブルのぎりぎり端に止まった。

「ユーリ?」

――広すぎる部屋が一人増えて埋まってても、こんなんじゃ意味無いんじゃない? 隣に居るのに声も聞けないんだから。
思った以上に拗ねたような声で、自分が少し気恥ずかしくなる。

「ユーリ」

途端に甘くなる声がいまいましい。

「ちゃんと言いますよ。おやすみなさいって。――本当に眠る前に」

耳元で囁く声に、体の奥が熱くなる。腕の中に抱き込まれた俺は、恋人の首に手を回して、無駄に色気を垂れ流し始めたその口に、がぶりと噛み付いてやった。



       *********



「――渋谷のフォロワーで、アイコンが赤い靴下になっている人誰? 片言っぽいけどちっちゃい子かなんか? って聞かれたぞ……」
「おや、子供ですか。もっと日本語を勉強しないといけませんね」
「つか、もういいから! あんたはもう書かなくていいから!!」
「でも」
「……離れてる時ならともかくさ……近くにいるなら、全部俺に直接言えよ」


@のツイートでは見逃すので連絡はメールか電話で。電話も勿論出れない時もあるし、後でかけなおす事が出来ない日もある。そんな時は、日を改めて。

あと、本当に大事な事は、目を見て直接言ってくれ。それだけ約束だからな、コンラッド。







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ええと……楽しそうでいいんですが
いつまで居るんでしょうかこのひとw

(20101008)

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