海の七月

 有利生誕祭2011


カウントダウンの最中に強制的にスタツアさせられた事がある。新年を迎える秒読みではなく、己の誕生日のだ。式典の準備で半狂乱な血盟城で、今まさに日付が替わるのを待ち構える状態で、うっかり倒したグラスの水に、え、と言う呟きと共に俺はつるりと吸い込まれた。そうして気がつけば自宅近くの公園の噴水に浸かって居たのだ四つんばいで。顎から滴り落ちる水滴が、夜中は休止している噴水に波紋を広げていた。その水面に揺れる月が物凄く綺麗だったのを覚えている。あの時は実は己は眞王に嫌われているのかもしれないと本気でめげた。俺のめげっぷりがすさまじかった為か、お袋モードに切り替わったせいなのかは知らないが、眼鏡をキラリと光らせた親友は静かに「今度あいつ、絞めとくから」と、無表情に宣誓した。その氷点下の声にはむしろ俺の背筋が凍ったものだ。いつもならそこまでは望まないけれど、 何時もの様にそこまではしなくて良いよ、とは正直な気持ちでは言えない。何とも物騒なプレゼント代わりのその言葉のせいか、あれ以来、あそこまで酷い強制送還はない。けれど不安だったのだ。折角皆が祝ってくれようとしたのに、今度も又肩透かしを食らわせてしまったらどうしようかと。日本に追い返された後に何度も考えた。みんなの笑顔と、『俺も準備していますよ。ちゃんと言われたとおり高価でないものをね』あとで渡される筈の贈り物の事をこっそり耳打ちしてきた名付け親の笑顔と。思い出したらどうにも怖くなって思わず背中を振り返った。

「どうしました」

口をへの字にした俺が振り返るのに、気遣わしげな声が落とされる。

「なあ……今年、大丈夫だよな」
「ああ」

納得したようにコンラッドは頷いた。

「今年は猊下の口ぞえがありますからね……昨年のような悲劇は起きないかと思いますが」

案じるような目でちらりとこちらを見て。

「不安ですか」
「不安って言うかさ……。何か。俺、今度何かあったら心底、皆に悪いなって思ってさ」

……そんな風に煮え切らない態度を取っていた俺の前に護衛はすっと手を差し出した。

「コンラッド?」
「手、握っていましょうか」

何時もの調子の声だ。なのに彼の表情は読めない。

「うん頼む!」

ちょっと恥ずかしい気がしたけれど、差し出された手をぎゅうっと握った。筋張ったすこし硬い手触りと、ぬくもりと、握り締めた手を見つめるだけで何だか凄く安心する。へらっと笑って護衛を見上げれば何故か彼は酷く奇妙な顔をしていた。

「……コンラッド?」

あれ、冗談だった? 握っちゃって、まずかったかな? おれ安心しちゃったんだけれど。

「――いえ、光栄です。」

何故だか酷く小さな声でコンラッドは答えた。周りにぎょっとされたっていいよ。何でもいいよ。俺が安心できて今日が乗り切れれば。そう男らしく宣言したままに、その日一日中、俺はずっとコンラッドと手を繋いでいた。時折何か言いかけてはやめる彼が居たが、本当はやめたいと思っているとしても、、はっきり言い出さない限りは今日は甘えてしまおうと、少し後ろめたく思いながら俺は知らない振りをした。

今日ずっと手を繋いでいてくれたから、あんたからのプレゼントはそれでいいよ。嬉しかったよ。ありがとう。そんな風に言ったその日の終わりに、彼が決して言うまいと決めていたらしい言葉を、思わず呟いたのを聞いた。聞いてしまった。目を見開いて固まる俺に、忘れてください、と怯えたように彼は慌てて後ずさりをする。(救国の英雄が何てことだ!) 飛びつくように彼の間合いに駆け込んで、俺は思い切り彼の右頬を平手で叩いた。忘れない!忘れない! タイムなし! ロープなし! もうやっちゃったから俺の勝ち!! 訳の判らない勢いで言い切ったらならば、もの凄い勢いで抱きしめられた。そうして気がつけば日付が替わってもう誕生日だ。

ゆでだこみたいに真っ赤になったまま、彼の腕の中で、今スタツアさせられたら上様に大暴れしてもらうから、と言えば、今流されたなら俺も一緒に地球に行ってしまいますね。やたら能天気な返事が来たので噴出して、色気もなにも無い状態で俺たちは二人で笑った。最高の誕生日。











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今年のゆーたんに書いた…んですよね…?(おい)
長いのは上の段、短いのはログに、と思ったんですが既に収集が着かないのですこのサイトww
全部見やすく改装したいです……アップしてない文がどれなのか正直判らないwwww
(20110729 / 20111016)

http://sos.main.jp/see7/index.html
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