海の七月

 ノーモアプレゼントミー(もろびとこぞりて・つづき)


悪魔と取引したとか契約書があるとか、そんな具体的なものは何も無いんだけれど、うかうかと甘やかされて誓いを破って、そうしてまた今度彼を失ったなら、俺はそれを報いのよ うに感じるだろうし、後の祭りになるのも嫌だ。自己嫌悪にさいなまれるのもイヤだし、これ以上一人夢の中で泣くのもごめんこうむる。だからプレゼントは一切ノーサンキュー。愛 娘に泣かれても王佐に汁を吹かれても(ああこれはいつもか)にっこり笑って、時にすまなさげに、うなだれるように、それでもノーサンキュー。誰が相手なのかも知れない取引だと しても彼を取り戻せたのは事実だから。

その、この先シブヤユーリの一生分のプレゼントと引き替えに、俺の元に返ってきた筈の大事な大事な、当の本人による無頓着さで俺はその誓いの誓約破棄の危機に立たされていた。

「ユーリ」

耳から体にじわりと染み込んでくる、俺の大好きな声だけれども、かぶりを振って追い払う。それはだめ。

「ユーリ……」
ぐいと引き寄せられて長い腕の中にすっぽりと抱え込まれて、耳を齧られそうな距離で甘い声がささやく。相変わらずあんたの声は反則だ。体の中心に熱が集まってくるのに慌てて気をそらそうとするも、背中を撫でるだけの男の手の動きにすら反応する正直な俺の体は震えが止まらない。まあ判っていて知らぬ顔であおってるんだよなこの男は。まったくもう……舌打ちのひとつもしてやりたいが、震える細い息にしかならない。本能からくる恐怖が半分、期待も半分。いや、だから期待は置いといて! 真昼間っから熱くなるなよ俺! いや夜ならいいとかそういう話では……あるけれど。まあそれはそれで。

あんたがいない間俺がどんなに心配したかわかってる? 今度こんな事が起きたら次は俺、どうなるかわからないよ? だから、世界だか神様だか知らない相手に誓ったこと破らせないでくれる? おれはもう誰からもプレゼントはもらわないったら!

「でもユーリ、だから俺がもらったんじゃないですか」

あなたを。

突っぱねようとした俺の腕を容易く絡めとリ、並んで座っていたソファの横に膝を着き、コンラッドは俺を抱きしめながら、俺の肩に頭をそっと乗せた。ソファに座ったままの俺がコンラッドを抱っこしてるようなカンジな筈だが、台詞とは真逆な状況な気がする。これは俺のもの。心の中だけでだから許して欲しいと許しを請うて呟いた。これは俺のもの、俺だけのもの。

「あなたが、俺をもらってくれないから、だから俺があなたをもらったんでしょう?」

……あげたし、貰ってもらったけれど、恥ずかしいから連呼しないでくれないかな。クリスマスの夕べに突然好きだと告げてくれたコンッドに、涙でぐしゃぐしゃの顔で、願掛けの話をして拒絶した俺。一瞬の沈黙の後に、大まじめな顔で奇跡のような裏技をおれに授けてくれた。八方ふさがりでサインを出せなくなったくじけそうな俺のミットに、にっこり笑ってボールを投げ込んでくれた俺だけのピッチャー。

「俺にとってユーリはこの世界でたったひとつだけ欲しいものです。言わずに心に隠しておこうと思っていましたが誰に許されなくてもあなたが許してくれるなら、俺はあなたが欲しい。俺は強欲なので帰ってこれる事と何かを引き換えにする誓いをたてていませんが、あなたが俺を欲しいのに言えないと言うのなら、俺が代わりに言います。俺はあなたが欲しい。俺にあなたをください。俺のものになってください。この先一生贈り物は無くてもいい。あなたがいるなら俺もこの先何もいりません。欲しいのはあなただけ」

あの時も俺は今みたいにすっぽり長い腕に抱き込まれて、コンラッドの胸元にすがりついてわんわん泣きじゃくっていたなぁ…。

じゃなくて!

まあ俺は誰も何も貰えないからあんたに俺をもらってもらったんだけど! 間違いないけど! だから何でそれが理由になる訳?

「ユーリは俺のものでしょう? 俺のものに何をあげようが、どんなに甘やかそうが俺の自由じゃありませんか」

言い切ったよ…! そういうあまやかしな親が子供をダメにするんだぞ!!

「…ユーリは俺の子供なんですか?」

こんな男前な親はいらないよ! コンプレックス刺激されまくっていじけた子供になりそうだから!

「ユーリがそんな風にいじけるなんてありえない」

あんた親ばかすぎるよ! 欲目にしたって、うちのおやじだってもう少し厳しいよ!

「どうかな、うちの子はそんな子じゃありません! ぐらい、ショーマも言いそうだけれど」

まーそうだけどね。




「で、アレの原因は何なの」

ひとしきりもめるふたりを呆れ顔で見ながら大賢者はお庭番の差し出すお茶を口に運んだ。

「あーばれんたいんでー、とやらのチョコレートをあげるのあげないのと言う話で」

「――ウェラー卿、確信犯だろ。お茶と一緒にお茶受けで出せばセーフっての知ってるくせに」

渋谷といちゃいちゃじゃれたくてわざとプレゼントとか言い出したよねーあの男は。

「あれ、君の幼馴染だろ。どうにかしてよ」

「いやー別に俺が育てたわけじゃありませんからねぇ…」

まったく……素直にふたりでチョコレートを食べながらお茶すればいいだけの話なのに、バカバカしすぎて溜息すら出やしない。しばらくお城のおやつをチョコレート尽くしにしてもらって興をそいでもらうとか……ああ、でもウェラー卿が密かにがっかりしたりすると、渋谷が心を痛めそうだから嫌なんだよなあ。

「やっぱりちょっと殴ってきてよヨザック。腹が立つから」

「勘弁してくださいよ猊下……」

カミさまだかホトケサマだかよく分からないけれど、尊き方の八つ当たりから逃れられるならば、えーとドレスの新調を一着分諦めますから……! などとお庭番が内心誰ともしらない相手に誓っていた事など大賢者は知る由もない。

「じゃあどうせあとでテーブルにのぼるはずのウェラー卿のチョコレート、うっかり盗み食いするとかでもいいよ」

ぎこちなく硬直したお庭番とすまし顔の大賢者をよそ目に、魔王と護衛の言い合い(主に魔王が叫ぶばかり)は未だ終らない。


「俺はぜーったいに貰わないからな!!!!!」







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もろびとこぞりて・つづき
書きかけを発見したので乱暴に終らせる。次男が駄目すぎるw
このあと盗み食いなんかしたらどんな復讐が来るか…!と畏れたお庭番が
決死の覚悟で「お茶請けにすればいいじゃないですかー」と言いに
行く(行かされるwww)と思いますw
(20101005)

http://sos.main.jp/see7/index.html
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