空に還る日・おまけ
椅子から立ち上がりかけの中腰で、大賢者と、それを追いかけるお庭番を見送った魔王は、親友の怒りの理由が判らず困惑した。同じく呆然とふたりを見ていた護衛が、主に顔を向け彼には珍しい強い口調で断言する。
「俺のところです」
ユーリは目をしばたたかせながら護衛を振り向く。
「帰る、というのなら俺の所にしてください」
緊張と苦悩が浮かべたまま、恐れるように伸ばされた護衛の指がそっとユーリに触れる。
「――俺は」
「あんたのとこだよ……おれが退位したら帰るのはね」
照れくさそうな笑みを浮べて、とびつくように軍服の胸元に顔を埋めた。長い腕にしっかりと抱きしめられて、満足そうな溜息が漏れる。
「俺も役を返上します。あなたが魔王で無いなら俺がそこに居る意味が無い。護衛の役を返上して、ずっとあなたと共にいます」
「……コンラッド、軍辞めちゃったらどうする? 他に何の仕事する? あ、領地とかあるのか。帰んなきゃ駄目か?」
「そうですねえ……そちらはどうとでもなりますが。あなたが望むなら一般人として普通に暮らしましょうか? がんばって牧場に弟子入りでもしますか。馬の世話なら出来ますし」
「楽しそうだけど、コンラッド顔売れすぎてるから、逆に雇ってもらえないんじゃない?」
「難しいですかね?」
「難しいですね――あ! でも必殺お忍びパターンなら行けるかも!」
「お忍び……坊ちゃんとお付きですか」
「……でもその頃はもう坊ちゃんじゃなくて、……ほんとにご隠居になってるかもしれない……よな……」
「それでもずっとおそばに置いて頂くつもりでおりますが、ユーリ」
「コンラッド……」
「俺も、年を取っても今より使えない男にならないようにしっかり勤めるつもりでいます。何か他に問題はありますか?」
腕の下から回された手が軍服の背を引き寄せる。
「無いよな」
くぐもりながら胸元で響く満足そうな声。
「……ええ何も」
愛しい人をもういちどきつく抱きしめながら、満面の笑みで護衛はささやいた。
了
<<
きれっぱし(…)が残っていたのでうp。<br>
執務室は大賢者による膝詰め説教の最中です(笑)
(20091222)