海の七月

 クマハチとわたし

くまみみ。くまみみ帽。
見た瞬間に判る。絶対グウェンの作だよな――?
グレタが大喜びして二つとも留学先に持っていったよ。ベアトリスと二人で被るってさ。

「それはよかった」

グウェンもさぞかし喜ぶでしょう。

行方知れずの後遺症でヘロヘロだった王は、今にも倒れそうなその様子を流石に心配した王佐と摂政の計らいで、今日は早々に執務から解放された。今は香りのいいお茶を優雅な仕草で入れてくれる護衛の部屋で、クッションを抱きしめながらソファでただひたすらごろごろしている。
 
「――なあ。俺たちがあそこに居なかったら」

「はい?」

「……コンラッドあれ、被ったの? 耳」

にっこりと微笑んだ名付け親のくまみみ姿を想像して、ユーリは思わずクッションごとテーブルに突っ伏した。美形はなにやったって似合うがこれはちょっと可愛らしすぎる。自分でもよく分からないくらいに顔が、耳が熱い。

「あんなもっこもこでかわいいのを……」

――俺の居ないところで。と言う最後の呟きは心の中にとどめておく。

「ああ…あれですか」

振動からさりげなく中身と茶器を庇った護衛は、そつなく再びテーブルにそれを置く。そのまま座らずに動こうとした腕を引いてユーリは強引に男を傍らに座らせた。

「二つあったじゃん。……誰と被るつもりだった訳?」

あんた俺の知らないところで誰と一緒に親代わりになる筈だった?

上目遣いに見あげてくる、ちょっとだけむくれたようなユーリの姿に、一瞬目を見開いた名付け親は、温かな日差しに溶けるクリームのように微笑んだ。

「繭の羽化が近付いたら、ユーリも皆も呼びに行こうと思っていました。皆でこっそりのぞこうかと。親代わりの栄誉はユーリにお渡ししようと思っていたので、帽子は常に持ち歩いていたのですが」

「俺……?」

「あなたが地球に帰られて不在の時は、俺がやったかもしれませんが、何しろ近場でじっくりクマハチを見られるめったにないチャンスですからね。部下が何人も立候補していたので、何事も無ければ誰か希望のものを選んで彼らに親代わりをやらせたでしょう」

「……くまみみ帽子ってさ、ふたつあったじゃん」

「ええ、あなたの分と、もうひとりですね」

「そしたらヴォルフとギュンターが取り合って大騒ぎ、じゃねえ?」

「まあそこは……ふたりが取り合って騒ぐだろうから、その隙に、あなたがこっそり俺にくれないかな、と」

「……俺に丸投げな訳」

抱えなおしたクッションに赤い顔を埋めて、くるりと背中を向ける。

「スミマセン、ユーリ」
 
何時だって彼の笑いはにこやかだ。自分ばかりが動揺させられて何だかズルイ。――それでも。

「……いいよ」

「今度何かあったら、やろう? 一緒に。親代わり」

クッションから身を離して、傍らの胸にそっと寄り添った。

「……ユーリ。ええ、楽しみにしています」

長い腕が背に回されて引き寄せられる。きつい位に抱きしめられて思わず満足げな溜息が漏れた。広い胸に顔を埋めてしがみつきながら、繭の代わりにこうやって何時だって抱きしめていて欲しいな。ふとそんな事をユーリは思った。





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嫉妬陛下と次男
その嫉妬は、クマハチになのか、部下になのか(笑
(20091122)

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