君にあげよう(verユーリ)
村田の言葉があまりにも突拍子も無かったので口をぽかんと開けたままユーリは口を挟むことが出来なかった。
「いや、何、どしたの? 村田」
「どうしたもこうしたも」
呆れたように大賢者は肩をすくめた。
「聞いていなかったのかい? だから」
眞王なんかには叶えられない望みを僕が君にあげる。どんな手だって使って必ず叶えてあげるから、
「あー欲しいもんをくれる話は聞いた」
何が欲しい?
「聞いてたんだ。じゃあ何が『何』だって言うんだい?」
さあ、だから渋谷――……
親友に何を促されているのか見当もつかないまま、ユーリは眞王廟を後にした。行きから世話になった護衛が、邪魔にならず抜かりなく警護も出来る距離を保ちつつユーリのあとを歩いている。ここにいつものように名付け親がいたならばユーリが腕組みした時点で話しかけてきただろうが、国境付近の諍いの調停に派遣されたまま今日で一週間彼は未だ帰らない。代理の護衛たちは皆弁えており考えの邪魔になる声などは全くと言って良い程かけてこなかった。その分ゆっくりと考える事が出来たが、村田からの問いへの答えは未だにまとまらないままだ。ブツブツと呟きながら考える。ほしいもの。なくしたいもの。くれるって、何でお前がくれるんだ……って、誓い合った恋人同士の片割れとかは駄目だけどって……え?
ふと脳裏に浮かんだ名付け親の姿に首まで真っ赤になる。
え? え、何……コンラッド……?
「はい?」
「!」
「どうかされましたか? 陛下。お顔が赤いようですが……」
「いやいやいやあれ? アンタいつ戻った? お疲れさま! もう済んだんだ? つか陛下って呼ぶな。で、何でもない何でもないから!!!!」
「たった今交代しましたよ。無事戻りました。トラブルは解決済みで、後程詳しくご報告いたします。陛下が考えにふけっておられたので部下は黙礼して去りました」
「うっわ、マジ? 俺ぼんやりしてて悪い事しちゃったよ〜ごめんって言っておいて!」
一週間ぶりの笑い声が耳を心地よく震わせる。
「陛下に故意に無視されたなどと思う者は、誰も、少なくとも俺の部下には居ませんよ? それに本人は本日お傍に上がれたことに、感激していました」
自分を見つけてサッと敬礼しつつ、微かにガッカリした表情が浮かべた部下を責めるつもりは毛頭無い。敬礼を返しつつ軽く笑んで頷けば、先ほどとは違った高揚で頬を染め、敬愛の眼差しで上官を見上げ、思索にふける主に深く礼をして足早に立ち去った、そんな姿を思い出しながら、
「陛下の護衛代理はものすごく人気がある名誉職です……そうそう譲るつもりはありませんけれど」
コンラートは口元に指を立ててウィンクをしてみせた。色男はそんな仕草さえ決まっていてずるい。
「真顔で言うなよ…」
俺だって。
ふと意識に浮かんだ考えに愕然とする。俺だってコンラッドを譲るつもりはない誰にだって――……!
――君がほしいものを僕があげるよ。
「……村田」
「陛下?」
「ごめんコンラッド、俺、も一回、眞王廟行って来る!!」
********
「村田!!」
「あれどうしたんだい、渋谷」
「俺、俺今気付いた!! 欲しいもの!!」
「……うん、まあ、そんな気はしてたんだけどね……やっぱり」
気付いてなかったんだねえ。とぼけてるのかと思ったんだが素だったんだねえ渋谷。困ったような哀れむような大賢者の眼差しにまごつきながら、ユーリはうんうんと首を振る。
「わ、わかった、のは実は先刻なんです……」
うん、君らしいというか、今までのそぶりで自覚が無かったと言うのが驚きなんだけど、実に君らしいよね。それで僕の所に慌てて戻ってきたんだ。大賢者自ら入れたお茶は、手を付けられないまま卓上で香るばかり、そわそわと心此処にあらずで、あちこちに目を泳がせながら時折ぼっと頬を染めるユーリに苦笑する。
「で、話を戻すけど君はそれが欲しいんだね?」
「あ、いやいやいや、欲しいもんはわかったけど!」
ユーリは慌てて目の前でブンブンと手を振る。
「く、くれとは言わないよ! そういう話は本人とするべきだろう?!」
「へえ、じゃあ自分で言えるんだね? 偉いな」
ビクと身をすくませる。
「てっきり君は考え過ぎて、逆に何も言えなくなっているんじゃないかと思い込んでいたんだけれど僕の考え違いだったんだねえ。流石だよ渋谷」
「う……」
眞王廟からの帰りに思いつめたような顔をしている名付け子が護衛はとてもとても気になったが、名付け子たっての願いで何も聞かなかった。護衛が望む事すらも無意識のうちに放棄していた言葉をぶつけられるのはまだまだずっと先のこと。
了
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はるか先に「聖なる愚か者〜」に続くらしいです(笑)
(20090812)