海の七月

 

 踊り子の靴は赤

毒の沼を綱渡りしているようなものでしたからね、俺たちはいつも。特に、俺たちみたいな下っ端じゃなく、アイツは混血とは言え王子さまでしたし。自分たちの仲間に入れたくなくて、血筋ばっかり偉そうに掲げて平民をゴミ扱いするようなお貴族さまがたが、必死に足を引っ張ろうとしてましたから。

アイツは毒の沼に渡された薄っぺらい板切れの上をまるで動揺せずに、整然と歩いてみせるみたいな事をしなくちゃならなくて、涼しい顔で、事実してきた。そうやってアイツが妨害を乗り越えていけばいくほど、更にお偉い方々には憎まれるんですよね。自分たちの領域を犯されると思って。元々そんな大層なモノなんて持っていやしないくせに。

しまいには、毒の沼に渡されるのが、憎しみを込めた切り込みの入ったロープ、なんてものになっちまって、ええ、歩きましたとも仲間もろとも、雄雄しく勇ましく……道化のごとく。それでも俺たちは帰ってきた。仲間の殆どを失って……。

だから、全部か否かなんですよ、命ギリギリの勝負事に懸けるのは。どこかに言い訳を残しておくとか、相手が、ええ陛下とか皆が真に望む事、そこに繋がる命綱を残しておく事が出来なかった。別にかばってるんじゃあ無いんですよ? 俺だって今回の事は隊長のバカヤロウとか思いますもん。けど、知ってるもんで、それについては何もいえない。アイツはね、アイツは要領よく見えて、その実途方も無く不器用な馬鹿なんですよ。だから全部懸けて、そんな事誰も望まないのに、自分の命懸けて行っちまったんですよ……。

つまらない話しちまいましたね。スイマセン。泣かないで下さい陛下。俺が殺されちまう……アイツか、皆にかはそれは知らないですがね。いっそアイツがすっ飛んで来たら、とっ捕まえて説教してやるんですがね。ええ、この際だからきつーく叱っておきましょうね……? きっとね、迷いがある分、後ろめたい分だけアイツがフリですよ。ハラジュクーフーリーですかね。え? そんなの聞いてない? ツマンナイから要らないって? そりゃあ失礼しましたね。お詫びに歌でも歌いましょうか。即却下ですか。自信あったのになあ〜〜……、え? すべらない話で何か? 寝物語には珍妙な要求ですねぇ……じゃあ、そうだなあ、ええと、この前行った国での話なんですが……。

ああ眠ったようで。すみませんちょっとばかり泣かしちまいました猊下。怒んないでくださいね、ほら猊下も一緒に、ベッドも空いている事だし、一緒に眠ってあげたらどうですか? ヴォルフラム閣下も居ない事ですし。そんな蹴られそうで嫌だとか言っていないで、ほらほら。お二人を寝かしつけたら俺はもう行きますよ……僕は眠らないとか言わないで。今度こそ本気で子守唄を歌いますよ? また即却下ですか。せつないですね。まあ判っていただければそれでいいです。

では、お休みなさいませ……良い夢を。陛下、猊下。






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長き不在
(20090802)

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